LOGINさすがの予想外な事実に驚きが隠せない。
「日枝(ひえ)さん、まずうちに来てくれない?」
「え。湊(みなと)君の家?」
「うん」
「……まあ、そこに何かがあるからなんだろうね。行くよ」
はっきり言って俺の学校での生活態度は真面目である。
そもそもに我々の学科は真面目な人間が多く、勢いで異性に何かをするような人間はほぼいないので、そこは信頼があったようだ。
彼女は徒歩だったため、俺は自転車を押して彼女を家まで案内していった。
そして……なんとなく予感があったものの、確証はない『あの事象』を確認に行く。
「ちょっとここで待ってて」
そういってアパートの階段の前で待ってもらう。
地方都市の学生アパートなので、ロビーなどは存在しない古い造りだ。
俺は家に入ってすぐに浴室のドアを開けた。
……やはりあった。
『淡く輝く扉』
俺はすぐに外に戻ると、日枝さんを呼んだ。
……
……「どういう現象なんだろうねこれ」
「さあ……」
見えている。
彼女には扉が見えることはまずはっきりした。
頭のいい人ってのは状況判断が早くて助かる。
変に驚いたり疑ったりされても面倒なだけだ。「開けていいの?」
彼女は俺の方を見ながらためらいがちに聞いてきた。
俺にはそれに答える権利もないと思ったが、一応俺の家の中にある扉だからそういう意味では俺が判断するもの? なのかもしれない。
「いいんじゃない?」
彼女の手が淡く輝くドアのノブを掴んだ。
少しずつ白い輝きがあふれてくる。
吸い込まれるように歩いていく彼女の背中に、俺はゆっくりとついていった。
―――――――――――――――――――――――「おかえ……誰!?」
庭の植物に水をやっていたマリチは、こっちを見るなり言う。
「え、あ、初めまして。私は湊くんの友人で日枝薫(ヒエ カオル)と言います」
「これはご丁寧に。私はマリチ。輝く古代樹の森のマリチ=マコチ」
きちんとお辞儀をしつつ、丁寧に答える。
基本的にマリチはいいやつなのだ。
突然出会った、人ならざる魔妖精族のマリチにしばらく目を奪われていた日枝さんだったが、やがて周囲のすべてが今までの世界とは違っていることに気づく。
目の前にある古代樹、そこを這う小さな虫、その前を飛ぶ小さな鳥……
どれをひとつとっても、すべて地球にはない幻想的な光景だ。
「すごい……これは仮想現実? それともほんとにこんな世界が……?」
日枝さんは横に生えている草をつまんだり、花の匂いを嗅いだりしている。
その様子をまじまじと観察しつつ、マリチは呟いた。
「ヨーイチと同じ、異世界の人間だねえ」
「わかるんだ」
ソーファンのプレイヤーだからこの世界に来ることができたのか?
それなら俺と同じように、様々な冒険者のスキルが使えるはずだ。
「日枝さんこれできる?」
俺は彼女に声をかけ、目の前で大剣をシュポンと取り出した。
「なに!??」
「頭の中に自分が持っている装備を思い浮かべて装備するだけだよ」
「何言ってるか全然わか……あ、ステータス画面をイメージするって事?」
シュポン
彼女の手に細身の剣が現れた。
「これ、もしかしてソーマファンタジーの……? 見覚えのある装備だ」
「ここがソーファンの中かって言われると少し違う気がするけど、似てる世界だなとは思うし、ステータスや装備が反映されてるんだ」
それを聞いた彼女は、小さく呪文のようなものを詠唱し始めた。
やがて、ボッっと目の前に火柱が上がる
理解が早くて助かる。
「魔法とかもつかえるんだ……! 楽しい……」
「ちょっと失礼」
俺は日枝さんのステータスを分析した。
ステータスの分析はされた方にもそれが分かるようになっている。
なのでいちおう声をかけるのが本来のマナーだ。現実世界でも他人をジロジロ見るのは失礼なのと同じである。
ふむ。彼女は中堅冒険者だな……
俺のようなガチ廃人プレイヤーではないが、今のこの世界だと一般の冒険者よりはだいぶレベルは高いだろう。
「日枝さんってどのクラス使ってた?」
自分にできることを色々と楽しそうに確認している彼女に、控えめに声をかける。
今後この世界で……そして現実世界でも戦っていかねばならないとすると、できることを確認しておくことは大事だ。
「え? あ、えっと……魔法剣士かな」
魔法剣士は中級クラスまでのほとんどの魔法を使いこなし、細身の剣や短剣を得意とし、自分や仲間に付与魔法をかけて強化して戦うクラスだ。
よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏。
だが多くのクラスを極めているとかでないなら、単体ではとても有用だと言える。
「あ、そうそう。基本的に防具も常時装備して、ステータス画面で非表示にしとくといいよ」
「え、そんなこともできるんだ?……なるほど何が起こるかわからない異世界だしね」
いやほんと、物分かりが早くて助かる。
「まあ驚きの連続だろうけど、現実世界で起きていた事の説明を今ここで一言でまとめて言っていい?」
「え、一言で? ……じゃあお願い」
様々な情報に翻弄され、こちらの世界のすべてをまだ現実のものとして受け止めきれていない彼女に対し、俺は一息ついてからゆっくりと言った。
「こっちで倒した敵、現実世界にも出るんだ」
一瞬きょとんとしていた彼女。
だが、その言葉と先ほどまで起こっていた現実世界での出来事が照合できたのだろう。 ポツリと呟いた。「……大変だ」
彼女はものすごく真顔になり、こっちを凝視してきた。
そしてそこから思考モードに入り、一人でなるほど……とかいろいろ呟いてる。
俺にもまだこの世界は分からないことだらけなのだ。
頭のいい彼女なら、俺の今までの不審な態度も理解してくれたことだろう。あと伝えておくべきは……
「ちなみになんだけど、この世界と現実世界、行き来自由じゃないっぽいんだよ」
ギギギギっと日枝さんはゆっくり顔を上げた。
「それ……とても困る……!」
なるほど。
俺みたいな家と学校を往復するだけの引きこもり気味ゲーマーと違って、勉学もバイトもサークル活動もそつなくこなす彼女にとっては、そっちが死活問題だったか。「さっきくぐってきた扉、ある時とない時があるんよ」
それを聞いた彼女は、慌てて古代樹の根の方に走っていく。
そしてしばらくして、トボトボと足を引きずるようにして戻ってきた。
……もう消えてしまっていたか。
「条件とかあるの?」
「いやそれは今のとこホントわかんなくて。でもこっちの一日は向こうの1時間だから、そこまで向こうの生活に支障はきたさないよ」
ややうなだれている彼女に対し、おれは淡々と付け足した。
「とりあえずこの森を出た山の向こうに街あるし、行ったことのあるとこならワープできるし行っておいでよ」
「私、空間転移の魔法つかえるクラスじゃないんだけど……というかちょっと待って、この世界で放置する気なの?」
「え!」
「そんなに驚く?」
俺は基本的にソロゲーマーだった。
だからこそ2アカウント目のマリチとの二人旅をしていたのだ。誰かと一緒に組むと自由度がなくて面倒になることもしばしばだし、冒険が義務になると作業化してつまらなくなるものだ。
「多分だけど今のここはまだソーファン初期の世界だから、日枝さんはかなりの高レベル冒険者だよ。なので街でギルドに参加すればソロでも余裕だろうし、パーティーも組みやすいよ」
「いやそういう事じゃなくて! ……さすがに慣れるまでは色々教えて欲しい」
くっ。めんどくさい。
ゲームを優先しすぎて、何度か異性との交友関係を捨て去った俺(カスすぎる)にはめんどくさすぎるぞ。
……ちなみに日枝さんは美形である。
学校でしか会ったことがないので着飾っている姿を見たことはないが、社交性もあり、きっとモテている。ゲーマーの俺とは住んでる世界が違うのだ。
思うところは色々あったが、連れてきたのは俺である。
仕方なくまずは町を案内し、ギルドまで一緒に行くことにした。
そこにいるのはいつもの受付嬢。
「カオル様は未登録ですね。ではEクラスからスタートになります」
「そうなんですね。これで仕事の依頼を受けられるようになるわけか」
「左様でございます。仕事はランクごとに難易度が分かれていて、壁のボードに張り付けてあります」
受付嬢が指を揃えて壁の方を指し示してくれる。
「低ランクの方でも高ランクの受託は可能で、高ランクのものをこなす方がポイントは多くもらえますよ」
掲示板の前には、複数人の様々な恰好をした冒険者たちが集まっている。
店内には食事をしている者や、雑談、口論をしている者などもおり、とても賑やかだ。
「というか……。ファンタジーだね~! 色んな種族の方もいるし、楽しい…!」
「そうなんだよね」
「帰れないわけではないみたいだし、なんだかんだで私ここに来られてよかった」
「それならよかった」
そして彼女は軽やかな足取りで壁の方に歩いていき、隅々までじっくり眺めた後、一枚の依頼書を指差して言った。
「私、これ行きたい」
ザワ……
ボード前に集まっていた冒険者たちが一斉に注目した。
彼女が指さしたのは、誰にも達成されずにずっと残っている依頼。
通称『アンタッチャブル』
長らく達成されないため放置されてきた、超難易度クエストである。
『天壇山脈の双竜退治 <難易度SSS> 』
「ぷ。お嬢ちゃんEクラスで何言ってんだ」
「国家プロジェクトでも解決できずにギルドに丸投げされて、ずっとこのままだぞ」
誰かが言ったのを皮切りに、たくさんの失笑が起こる。
「……」
恥ずかしそうにうつむく彼女に対し、それまでテーブルに座って謎の果物を食べていたマリチがスクッと立ち上がった。
そして椅子からぴょんと飛び降り、すたすたと歩み寄っていく。「おもしろそうだねカオル。やろう」
いや待って。
すべてのクエストを制覇した俺でも聞いたことないクエストなんだけど、それホントに軽々しく受けて大丈夫なやつ?
SSSランクは初めて見たよ?――――――――――――――――――――――――――――――
ソーファンの世界には多くの秘境が存在している。そこには数々の遺跡や強大なモンスターたちが冒険者たちを待ち受けている。
その中の一つ『天壇山脈』
そこは世界最高峰であり、伝説の竜が住まう地。
天壇山系にはもっとも標高の高い地点が二か所ある。
すなわちそれが『北天峰』と『南天峰』である。
そこには二匹の竜が住んでいる。
北天に棲まうは、黒竜の『ドメフメアミア』
南天に棲まうは、白竜の『ギイガミア』
二体は一つの卵から生まれたとされている。
元は一つの山であった『極天峰』に産み落とされたその卵は、奇跡的に二体の竜を宿していた。
しかし一つの卵から二体の竜が生まれることはない。
何故なら卵の中には一体分を育てるエネルギーしか内包されていないからだ。
ではどうやって二体は生まれたのか。
卵はまだ二体の竜が未熟な状態から成長に必要なエネルギーを集めるべく、周囲の生命や自然から魔力や生命力を集めた。
それにより極天峰の周辺は生命の住めない、精霊力の乏しい土地になった。
かくして二体は誕生した。
そして生まれたその瞬間から、数千年に及ぶ戦いが始まった。
一つの峰が二つに裂けたのはそのせいである。
二体はお互いを食らうべく戦う。
そしてエネルギーを使い果たしたとき眠りにつく。
その戦いが100年ごとに繰り返されている
二体の戦いは苛烈である。
山はそのたびに形を変え、山頂の氷は解けて下界に洪水を起こす。
15年前、周辺国にて連合軍が形成されて討伐を試みたことがあるが、一体を攻撃している最中にもう一体が飛来し、壊滅したという。
だがしかし。
歴史学者の見解では、敗因の最大の要因は時期の悪さだとみる。 残り数年で再び戦いが始まるタイミングで戦いを挑んだのは悪手である。と。すなわち二体の竜はお互い傷が癒え、戦う力をほとんど蓄え切ったタイミングであったからだ。
連合国軍を壊滅させた竜たちはそのままお互いに戦いを始め、やがてまた力を使い果たした後、眠りについた。
今はまだ、そこから5年ほどしか経っていない。
「つまり竜たちのエネルギーは、現在まだ5%しか溜まってないってことなの」
古代図書館にて巨大な本を机上に広げたまま、マリチは得意げに言った。
「後半の情報は、冒険者新聞の記事まとめだけど」
「初めて聞いたイベントだな」
「イベントって……。私にはもうリアルな伝承にしか聞こえないわよ」
基本的に俺はゲームの時に実装されているイベントは全制覇していた。
しかし壁に貼られている依頼には知らない物がたくさんあった。
ギルドのシステムも少しずつ違うようだし、やはりここはゲームのソーマファンタジーと全く同じなわけではないと感じる。
というか、少しずつこの世界も独自の変化や進化をしているのかも。
「今のとこまともに戦えた人がいないから(秒殺されるので)レベルや戦闘力とか攻撃方法はまったく不明だねえ」
「天壇山脈なら、途中の山小屋までは転移できるな。あ、日枝さんはどう?」
「私も中腹の山小屋なら行ったことある」
「オケ」
いちおう薬とかはそろえておいた方がいいだろう。
やや気圧されている日枝さんを促し、俺たちは競売所へ向かった。
基本的に店売りされているアイテムはしょぼい。
効果の高い装備や道具は、他の冒険者たちが手に入れて競売に出したものを買うのが普通だ。「たっかい」
マリチが呻いた。
「なるほど供給が少ないから希少性のある薬は高すぎるのか」
それを横で見ていた日枝さんは、自分のアイテム欄をみながらため息をつく。
「装備は持ってるのに、お金や消耗アイテムは持ってないんだね」
そう。ステータスや装備そしてイベントなどで手に入れる”だいじなもの”は引き継いでいるのに、お金や消耗品は全然持っていないのだ。
なので生きていくためには普通に日々の糧を得るための仕事をしなくてはならない。
まあ強力な回復アイテムが手に入らなくとも、我々には転移魔法がある。
ヤバそうだったら退却すればいい。マリチは俺と日枝さんの手をパッと取ると、さっそく転移を開始した
「さあ登ろう」
俺はむくっと起き上がったそこはマリチの家の庭「元凶になったドラゴンを倒したのに……なんで私たちはまた異世界なんだろうね」ぶっ倒れていた俺の横に座っていた日枝薫が少し不思議そうに呟いた「……」―――俺が望んだからだ。まだこの世界の探索は始まったばかりだしやらなきゃいけないクエストもイベントもいっぱい残っているからな!「みんなどうやってここに?」素朴な疑問だ「私は家で勉強してたら部屋に扉が出たから。そこから入った」妹の曜ヒカリがとんでもないことを言った「湊くんとマリチさんが消えた後、あそこに扉が出たので」なるほど俺たちが飛ばされた後の話か「私は女神さまに会ったよ」マリチは腕を腰に当て、ふんぞり返りながら言った確かにあの時マリチも一緒に飛ばされていったからな……「あ、そうなんだ。なんて言ってた?」マリチは少し空を見上げながら考え込む「あんまり覚えてないな……お礼を言われた気はするけど」「そうなのか」「あ、でも。マリチにも扉、見えるようになりました」『えっ』衝撃の発言に、俺と日枝さんと曜がそろって声を上げる「てことで、これからはそっちにも遊びに行こうかなと」それとんでもないことになるやんこのお気楽な最強女子を俺たちの現実世界は受け止められるんか?「じゃあ私もまた冒険しに来ようかな」曜はえへへと笑いながら言った俺にとってはライフワークなのに、へらへらしながら言ってるんじゃないよ「それよりさ」マリチがニヤリと笑った「そろそろ深海の悪魔が湧くころだよ。行くよね?」『深海の悪魔』それは魔の海域と呼ばれる場所にひっそりとある海底洞窟に
「無明拳。からのもっかい無明拳」ガン!……ガン!!必殺拳を二連続で命中させることにより、連携空間「極光」が発生する。俺はそこにすかさず聖球の魔法をぶちこむ。龍の頭部が大きく後ろに揺らめき、側頭部の結晶がはじけ飛ぶ。が、大きくのけぞった頭部は再び遠心力をつけて攻撃してくる。口を大きく開いて噛みついてくるのを、すかさず割り込んだ俺が受ける。マリチはそれを当然のことのように感じているのか、感謝をすることもない。 そもそも最初から回避をする気もないようだ。龍は相変わらずレーザーを撃ってくる。たまにマリチをかすめることもあるが、武術家の膨大なHPで致命傷には至らない。しっぽや噛みつきといった特大物理攻撃に関しては、俺が先読みして受ける。「無限・羅刹衝」マリチの両手から放つ衝撃波が、龍の腹部を大きくへこませた。その衝撃で最後まで残っていた星核結晶に大きなひびが入り、バラバラと剥がれ落ちる「ああ……やっぱり蛇だったんだなあ」虹色の結晶核をすべて剥ぎ取られた龍は、もはや『龍』とは呼べない。翼は捥がれ、たくさんの角のように伸びていた結晶は全部砕かれ、全身は光沢のある白い鱗でおおわれている。かろうじて残っている小さな四肢が、蛇をまだ龍だと言わしめる。「極大雷撃槍」マリチが腕を振り上げて、巨大な雷魔法の槍を放った。バリバリバリバリ……!!だが電撃は龍に当たるか当たらないかのところで、虹色の障壁に阻まれる。「結晶の鎧がなくとも、そもそも星核の力を吸い取ってるから魔法は効かないか」俺は冷静に敵の動きを見ながら、何が効いて何が効かないかを観察していく。 (決して横で解説してくる謎のおじさんになっているわけではない)が、そんなことは一向にお構いなしの奴がここにいる。「連続流星群」マリチが両手を大きく広げ、その手をまっすぐ上にあげる。と、同時に龍の上空に無数の魔法陣が現れて巨大な隕石が落ちてくる。それを防ぐべく、龍の身体に無数に現れた防御障壁の輝きで、辺りはまるで昼のように輝く。だがマリチの攻撃はとどまることがない。「漆黒の闇を統べし者、我が求めに応じ疾くきたれ。いでよ冥王」素早く両手を回して魔法陣を生みだすと、そこから黒い巨大な人型の深い闇が現れる。「世界を律する滅びの鳴動。審判!!」イバラの様に伸びる無数の黒い稲妻が、アメノ
淡い光の道を駆け抜けたその直後。……夜か。辺りは闇に包まれていた。眼がまだ慣れていないためほとんど何も見えないが、ここがどこかは予想がつく。転移魔法は一度行ったことのある場所しか行けない。龍が現世でゆかりのある場所は、あの奥宮しかないはずだ。 ……だが妙だ。静かすぎる。あんな巨体、境内に隠れる場所などほとんどないはず。さらに言えば黒竜が現れた際に、ほとんどの木が吹き飛んでいる。何処にいても剥き出しになるはずだ……いくら夜の闇の中だとは言え、まったく見えないということは……。ここではない別の場所に現れているのか……?俺は戸惑いの中、一瞬だけ後ろを振り返ってみた。遠くには町の小さな光が綺麗に見えている。やはりここはあの奥宮のあった高台。そして扉がつながったということは……はっと気が付いた。――暗すぎる。昨日はちゃんと月が出ていた。今日の月齢こそ正確にはわからないが、満月に近い頃合いだったはずなのにこの闇の深さ。俺は本来あるべき月を見上げた。 やはり―――そこにいたか。異世界と現実世界を結ぶ、伝説のモンスターただ……その姿は――「カオスドラゴンになっとる……」先ほどまでの星の核の上で戦っていた時は、長い身体をくゆらせる蛇体だった。今はそこにドラゴンの様な翼膜を備えた巨大な翼を持っている。もしかして単純に、飛ぶ必要がない時は収納可能だった?元々ソーファン世界で戦った時は無駄にホバリングしていた。ゲームだとバトルフィールドは閉鎖空間なので、その飛行能力に意味はなかったが、ここは何でもありの現実世界。大型モンスターの飛行移動は、被害の桁を変えてしまう。「マズいぞ……」小さな蛇神様だったときのアメノミカヅチがどういう神さまで、どういう経緯でここに祀られていたのかは分からない。だが無理やり召喚されて、暴走するほどのエネルギーを与えられ、モンスターに成った状態で、ここに戻ってきたのだ。女神さまの意思でもあり、異世界の精霊たちの意思でもある。二つの世界のバランスを取る者(自称)として……大変申し訳ないのだが、龍の神さまにはもう一度お鎮まりいただく!って……俺が負けたら、この龍で世界が滅びるかもしれないな……あ、でもそうなったら次は別の世界からたくさんの勇者たちがやってきて アメノミカヅチを倒すという第
戦いは始まった。巨大な水の槍は龍の輝く鱗をバキバキと砕きながら突き進む。しかし圧力は少しずつ弱まり、やがて水飛沫へと形を変えて消えていく。全ての水が飛び散り霧散しても、龍の硬質のたてがみを破壊しきれてはいない。周囲の星核結晶と同じ淡く発光していた龍の身体。 しかし、ゆっくりと動き始めると同時にその光が消える。……充電を途中でやめた。みたいな状態?鎌首を持ち上げるように上体を起こすと、龍の胴体は硬質の結晶同士が擦れあう轟音を立てながらこちらに這い寄ってきた。俺はまだ敵との距離がある間に、カオスドラゴンを『調べる』《星龍 アメノミカヅチ》『その強さは計り知れない』と表示されている。ステータスや体力ゲージなどはどこにも見えない。……今のでどれくらいダメージを与えたのかも分からないな。時間制限のある絶対防御を最初から使ってしまうのはマズい。相手の攻撃の威力が判断できないし、長期戦の戦略が組みにくくなる。「俺がダメージをもらった時の回復は任せる!」龍から距離を取って下がっている日枝さんに、俺は合図を出しておく。「わかった!」俺は威嚇のための閃光魔法を放った。そこか。とでも言うように、龍がこちらを向く。その動きは龍ではない。蛇だ。というか、この龍は……蛇なのだ。異世界にて強大に成長したことで龍に成ったのだ。アメノ(天に棲まう)ミカ(門を制する)ツチ(蛇)なのだ。何処にあるかもよく分からなかった口が、裂けるように横に開いた。……その姿も蛇をほうふつとさせるヴァハッ無数の小さな何かを飛ばしてくるその動きは、さながら毒を吐きかけるが如く。高速で飛んでくるその何かを、俺は身幅の広い両手剣で受け止める。「結晶の欠片か…!」 それは細かく砕かれたような無数の結晶の破片だ。全てが尖った鋭利な構造をしており、刺さると厄介そうである。この巨大な敵と戦うのに、小細工は必要ないだろう。俺は剣を振りかぶると、思い切りよく胴体に切りつけた。ガギッ!!うん。まあ、めちゃくちゃ堅いが、一応ダメージは入るな。「無双連斬」25回攻撃。ドガガガガガガガガガガッガガッガッガが、モーションが長すぎる。途中で巨大な尾による薙ぎ払い攻撃が飛んできた。攻撃をキャンセルして剣で受ける。ドガッッ身体が浮かされ、100メートルぐらい飛ばされた
「で、どこにいるの? カオスドラゴン……その……アメノミカヅチ様は」「それなんだよな……」ソーファン世界で戦ったカオスドラゴンは、星の核に寄生していた。 戦いは謎の異空間みたいなところで行われていたが、あれはどこなのか。通常の方法でその場所には行けないだろうから、こちらから挑むことができない。ソーファン世界のモンスターは俺たちを感知してから実体化していたが、それはおそらくこちらの世界とのつながりが弱かったからなのだろうだがカオスドラゴンは元々こちらの存在……。もしこっち側に出たら、最初から実体化してるのではないか?「元々ここでお鎮まり頂いていたのなら、実は良い神さまだったりしない?」俺の不穏な予測とは裏腹に、日枝薫が素朴な疑問を口にした。が、それはないんじゃないかな……。何故なら、暴走して魔獣と化したからこそ討伐イベントが発生したのだ。そしてそもそもに俺が異世界に行くことになったのも、倒さなければならない存在だと判断されたからだろう「暴走したソイツと戦ったのが事の始まりだからなあ……」「ダメかぁ」やはり被害を最小限にするにはまだ活動を始めていない今、倒すしかない。「なんとかしてこっちから行くしかないな」「やっぱりそうなるか……」いままで扉が出たり出なかったりする条件がいまいちわからなかったが、今ならなんとなくわかる扉はおそらく必要に応じて出してくれてたんだろう。全ては『龍』を倒すことにつながるように。「じゃあ行ってくる」俺は魔導書を出し、転移魔法を唱え始めたガシッ魔導書を持っている手首を掴まれた「私を置いていくつもり?」詠唱は一瞬にして完成してしまっている。日枝薫の表情を確認する間もなく、転移空間は俺たち二人を飲み込んだ ブオォォン腕を掴まれたまま俺たちが出てきたのは、アパートの風呂場。すなわち光る『扉』の前だ。 なにかを訴えかけるように、いつもより輝きが強い気がする。「行けってことだよね」電気がついていない夕暮れ時の風呂場である。薄暗い室内でなお、日枝薫の目は輝いている。「いや、俺だけで行くよ」強すぎる敵である。 以前戦った時にわかったが、レベルマックスの俺たちと対等のモンスターだった。まだ装備やレベルがマックスではない日枝さんが戦うのは危険だ。「君の言いたいことはわかる。でも支援ぐらい
大学の図書館にめぼしい発見はなく、街の図書館にて見つけた情報。ようやくそれらしい記述を見つけたかもしれない。俺はバリバリに理系で、こういうジャンルの専門家でもない。……だからこれはあくまでも想像の域を出ない。 記紀(古事記・日本書紀)には載っていない古い郷土史、風土記の記述。いわゆる地元以外では知られない、小さなお社などの看板等でしか見ない物語。そこに登場しているお宮の名前は『神戸(カミド)神社』主祭神はふつうに天照大御神、と、地元の氏神様。 けどそのお宮の隅っこに摂社として小さな祠がある。そこに祀られている『門蛇大明神』とやらの御祭神が。『天之御門蛇(アメノミカヅチ)』 または 『天石門別蛟(アメノイワトワケノミズチ)』という謎の存在。これは有名な天岩戸伝説に関わっているらしい。 いわゆる、天照大御神が天岩屋に隠れたという有名な物語だ。御門というのはその時に洞窟をふさいだ岩の事。門の神さまである。岩の洞窟の入口を岩で防いだら普通、隙間が結構できる。自然石と自然石なのでピッタリ合わさることにはならないからだ。しかし岩戸は結界となり外界とは隔絶される。その岩戸にできる、ほんの小さな隙間を通り抜け、出入りできるモノが居た。岩戸隠れした際に隙間から出入りし、天照大神の話し相手になっていたのがこの……『アメノミカヅチ』という、神というか……蛇の妖怪だ。この物ノ怪は、岩戸の隙間を何度も出入りしていた。 つまり、結界をくぐり抜ける力を持っていたと考えられる。それこそが門を越える力……。現実世界と異世界の次元を飛び越えられる力?ソーマファンタジーという異世界において、一万年前にあった星核の暴走の際。そのエネルギーを喰わせるために元になった、神獣と呼ばれるモノの正体。 これかも……。人智を越えている。 だが、筋は通る。次元を超える力を持っていた存在だったからこそ、異世界から何らかの方法で召喚されたのかもしれない。だが……もしそうだとすると、カオスドラゴン……アメノミカヅチは、いつかこちらに還ってくるのだ。俺と同じように異世界の力を手にして。何故最初のきっかけがカオスドラゴン討伐だったのか。この町に住んでいた俺が代表として選ばれて異世界に行ったのか。全ては繋がっていたに違いない。俺である必要がない気も少しする







